京都地方裁判所 昭和53年(ソ)1号 決定 1978年10月31日
抗告人 平沢政治郎
右訴訟代理人弁護士 猪野愈
右同 三宅邦明
相手方 垣東定夫
主文
原決定を取消す。
本件を京都地方裁判所に移送する。
理由
一 抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙抗告理由書記載のとおりであり、その要旨は、相手方を原告、抗告人を被告とする京都簡易裁判所昭和五二年(ハ)第三一八号建物明渡請求事件(以下「本件事件」という。)において、原告である相手方は、当初別紙第二物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)上に存在する別紙第三物件目録記載の家屋(以下「本件家屋」という。)につき賃貸借契約の終了を原因としてその明渡を請求(以下「第一請求」という。)し、その後、右土地上に存在する抗告人所有の別紙第一物件目録記載の工作物(以下「本件工作物」という。)の収去並びに本件土地の明渡請求(以下「第二請求」という。)を追加したのに対し、抗告人が右第二請求の追加による訴額の増加により本件事件は地方裁判所の事物管轄に属するとして右事件の移送を申立てたが、第一請求により相手方の得る実質上の経済的利益に第二請求による経済的利益が含まれることを理由に右申立を却下されたため、抗告趣旨どおりの裁判を求めるというにある。
二 よって判断するに、民事訴訟法二三条一項は財産権上の請求の併合の場合の訴額合算について規定するところ、同項の「一の訴を以て数個の請求を為すとき」とは、訴提起時から併合されている原始的併合の場合のみならず、訴えの追加的変更などの後発的併合の場合をも含むというべきであり、原則として各請求の価額を合算して訴額を定めるべきであるが、複数の請求の経済的利益が重複している場合には、各請求のうち最も多額な請求の価額により訴額を定めるべきである。(最判昭和四九・二・五民集二八―一―二七参照)
三 これを本件事件についてみるに、一件記録によれば、第一請求は本件家屋の賃貸借契約終了による明渡を請求するものであり、第二請求は本件土地所有権に基づき本件工作物の収去並びに本件土地の明渡を求めるものであること、本件家屋の固定資産税の課税標準価額は一〇、八〇〇円(昭和五二年)であり、本件土地の右同価額は一、九七八、五〇〇円(昭和五三年)であること、本件土地の面積は一〇四・七二平方メートル、本件工作物の直接の敷地の面積は概ね三六・六平方メートル(六・一メートル×六メートル)であることが認められる。
右認定事実によれば、第一請求の経済的利益は直接的には本件家屋の占有を回復することであり、本件土地の占有を回復することは間接的な経済的利益にすぎず、したがってその訴額は本件家屋の前記価額の二分の一(五、四〇〇円)を基準に定めるのが相当である(最高裁昭和三一年一二月一二日民事甲第四一二号民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」<以下単に「訴額通知」という。>参照)が、第二請求の経済的利益は、少なくとも本件土地のうち本件工作物の敷地部分の占有を回復することにあり、本件工作物の収去はそのための手段方法にすぎず、その訴額は右敷地部分の前記価額六九一、七四六円(本件土地の価額の一〇四・七二分の三六・六)の二分の一を下らない(訴額通知参照)というべきである。そうすると第一請求と第二請求の訴額を合算する場合はいうまでもなく、両請求の経済的利益が重複するとみても、その最も多額な請求の価額である第二請求の訴額(三四五、七四六円)は三〇万円を超過することが明らかであり、本件事件は地方裁判所の事物管轄に属するものというべきである。
四 したがって、本件抗告申立は理由があるから、原決定を取消し、本件を京都地方裁判所へ移送することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 野崎薫子 岡原剛)
<以下省略>